ボロボロのホームベース。
今から3〜4年前、息子のEneが小学2年生の頃だっただろうか…。
野球のチーム練習がお昼で終わった。
腹ペコの2人はファミレスに行って大好きなハンバーグを食べた。
大体ファミレスに行くと かなりの高確率でハンバーグを食べている。
午後からは用事が無かったので、公園へ遊びに行く事にした。
この頃の2人は「自主練するぞっ!」と気合を入れている時期ではなかった。
ただただ純粋に公園で楽しく遊ぶ。
大きなスベリ台やブランコが大好きなEne君。
少し遠かったけど、小さな野球場が隣接している公園へ行く事にした。
ひょっとしたら、球場で何処かのチームが試合をしているかもしれない。
公園で遊び疲れた後にEneと一緒にジュースでも飲みながら野球を見るのも良いなぁ。
そんな風景を勝手に想像した。
公園に向かう車中の会話は覚えていない。
今の私たち親子ならば、野球の話ばかりになると思う。
ただ、当時の私たち親子ならば…、たぶん 野球の話はしていなかったと思う。
公園に着いた。
息子は笑顔いっぱいでブランコに向かって駆け出す。
無邪気なEneに「転ぶなよっ!」こんな類の声を掛けたと思う。
そして、私は“隣の小さな野球場”を見た。
静かなグランド…、野球場には誰もいない。
私の想像した風景にはならないな…。
まぁ、いいや。 さぁ、楽しく遊ぼっ。
色んな種類のブランコ、長ぁ〜いローラー滑り台。
トンネルがある大きな山の形をした遊具や芝生広場。
Eneと2人で たっぷりと楽しんだ。
さんざん走り回って疲れたので、ひと休み。
自販機を探してジュースを買った。
予定では、このジュースを飲みながら見知らぬチームの試合を見るはずだった。
だけど、小さな野球場は静かなまま。
それでも2人は小さな球場の方へ歩いて行った。
入り口には小さなカギが掛けてある。
グランドには入れない。
ジュースを飲みながらフェンス越しにグランドを見た。
近くで見る球場は、とても古く感じた。
内野は黒い土。外野は芝生。バックスクリーンにはスコアボードがある。
ベンチがあって、バックネット裏には わずかだけど観客席がある。
古い球場だけど、きれいに整備されている。
いつも小学校のグランドで練習している私たちにとっては憧れの野球場。
古くて小さい球場だけど、ここで試合が出来たらいいなぁ。
私が声を掛けようとした時、私の声をさえぎるかのようにEneが話し出した。
「大きくてキレイなグランドだね。」
“小さい球場”とは言えなくなった私。
「ここで試合したいだろう。ホームランを打てるようになれよ。」
バックスクリーンに向かって指を差しながら息子に言った。
「うんっ。」とうなずき、ニコッと笑うEne。
そして、かなり長い時間 野球の話しをした。
こんなに長く野球の話をしたのは始めてかもしれない。
2人のジュースは すでに空っぽ。
いっぱい話しすぎて、のどが渇いていたほど。
さぁ、帰ろうか。
ジュースの缶を捨てるために自販機の方へ向かう。
その途中に公園のゴミ箱があった。
昔ながらの鉄製で大きな網目ゴミ箱。
私は、そのゴミ箱にポイッと缶を投げ捨てた。
背後から「ナイスボール!」と息子の声。
そんなに褒められるほどの距離じゃないし、ましてや投げたつもりないし…。
野球の話をしていた余韻だろうか。
まだ、Eneの頭は野球でいっぱいになっていたかもしれない。
息子は缶を振りかぶった。
「コラっ! 投げるな。」
遅かった…。 弧を描いて缶が投げられた…。
カツン! カラランカラカラ……。はずれ。
落ちた缶を拾ってゴミ箱に近づいた時、
「ねぇねぇ、お父さん、これってホームベースじゃない?」
見てみると、ゴミ箱の下の方にホームベースらしきものが捨てられていた。
ゴミ箱の中には、コンビニ弁当の空容器や空き缶、雑誌などが捨てられている。
息子の表情は「取って!」と言いたげ。
あまり気は乗らなかったけど、このゴミ箱の中に手をつっ込んで取り出してみた。
ベースの縁は、固定するために打ち付けられた釘穴がいっぱい。
ベースの角は、削られてボロボロ、風化してデコボコ。
ベースの表面は、金属スパイクで踏まれた跡が無数にある。
ゴミ箱に捨てられていたので、なんかネチャネチャするホームベース。
さっきの小さな球場で使われていたホームベースだと予測できた。
球場の整備をしてホームベースを替えたんだろう。
ボロボロだけど、せっかくなので家に持って帰ることにした。
ボロベースを洗った。
少しでも白くなるように2人で磨いた。
さすがに思うようには白くならない…。
それでも、Eneは嬉しそうにボロベースを置いて バッターの真似をした。
次の日、ボロベースを使って素振りをした。
Eneが自発的に練習した初めての素振りと言ってもいいかもしれない。
そう考えると、このボロベースが偉大に見える。
ボロベースが我が家に着てから数年。
あれからずっと、自宅前の自主練習にはボロベースが欠かせない。
素振りの時、シャトル打ちの時などは、いつもEneの足元に居るボロベース。
捕手のキャッチング練習の時は、Eneのすぐ前に居る。
ピッチング練習の時には、私のすぐ前に居る。
ボロベースは、私たち親子の表情を下から見続けてきた。
Eneと私の真剣な顔やスマイル笑顔。^^
時には 私の怒り顔、そしてEneの泣き顔も見ただろう。
本当にボロボロなホームベース。
穴がいっぱい、表面はキズだらけ、角がボロボロ。
だけど、まったく捨てる気は無い。
むしろ、出会えた事に感謝している。
誰もいない小さな球場、2人で語った野球の話。
あの時に投げた空き缶がゴミ箱にストライク投球されていたら…。
気付かず、出会わなかっただろう。
出会ったおかげで自主練習にアクセントが付いた。
「野球が好きなら 練習をしなさい。」
それを気付かせる為にボロベースが我が家に来てくれたかもしれない。
これからも いつもボロベースと一緒。
Eneの足元から 成長を見てくれている。
ボロボロのホームベース。
出会えてよかった。









